住民が身の丈サイズでできる地方活性化とは
一つ実例を出して解説しよう。
定年退職した小学校の元校長先生がいた。奥さんは福祉医療関係の仕事をしていた。
彼の教員仲間は定年退職と同時に自宅待機で自由時間が増えた。
近所の歯科医院は跡取りがなく、廃業してその建物が売りに出ていた。
元校長の住む地域コミュニティは中山間地にあり、その高齢化率は40%を超えていた。
元校長は自由時間の増えた中で、地域の人々に何か貢献ができないかと考えるようになっていた。
3千万円を超える退職金(お金)が通帳にある。そして、ご近所の高齢者は皆が集まれるたまり場が欲しいという潜在的なニーズ(情報)が存在した。
さあそこでだ。
コミュニティ・ビジネスの経営という視点で地域資源を考えると、人、モノ、金、情報が揃ったことになる。元校長は寝ずに考えた。妻には看護師の資格がある。近所の高齢者は、たまり場としてのデイサービスを必要としている。近所の元歯科医院は天井が高く、待合室もあり、中古の売り物件となっている。自分には退職金という資金があるが使い道は未定だ。何か地域コミュニティに貢献ができないかと考えていたが、妻と相談して、これ(デイサービス)だと思った。
数ヵ月後に妻を代表者にしてデイサービスが誕生した。会社を退職し手持ち無沙汰にしていた近所の60歳代男性の雇用もできた。子育てを終えた主婦やヘルパーの資格を持つ協力者も得た。みんな地域で働く場を求めていた人たちだ。
1年も経たないうちに定員8名のデイサービスは高齢者が集まりだした。特に要支援1、2のおじいちゃん、おばちゃんたちが喜んで通いだし、施設内のカラオケルームは毎日彼らで大盛況。かっての退職した教員仲間も手伝いに来て、元国語の先生は俳句や短歌を教え、元図画工作の先生は絵画や焼き物づくりを手ほどきし、元体育の先生は健康体操を指導した。さらに彼らは、地域の子供達を集め、寺子屋塾を開いて子供達の勉強をサポートしている。
以上のように、地方活性化にはこうした眠っている地域資源の発見とそのアッセンブリ”が大切である。
地域には、活かされない人々(退職した元校長、退職した教員、資格のある看護師・ヘルパー、近所で働きたい人など)、活かされないモノ(元歯科医院だった売り物件)、活かしきれないお金(元校長の退職金)、ご近所さんのつぶやき(近所にたまり場が欲しいという高齢者の思いや近所で働きたいという人々の願い)などの情報がころがっている。
これら遊休資源を発見しながら上手く組み合わせてコミュニティ・ビジネス化し、地域に必要な小さな雇用の場を生み出すことがいま求められている。これが地域の住民が身の丈サイズでできる真の地方活性化である。そうすることにより地域で眠っていた人、モノ、金、情報は回りだし、再活性化するのである。
政府には税の減免などの制度保障と財政支援を、地方自治体にはこうした小さな事業を一つひとつ掘り起こしながら、これらを手本にして丁寧に地域全体をコミュニティ・ビジネス事業でネットワーク化していくことが求められるのである。
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